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肺マック症・肺非結核性抗酸菌症

肺マック症・肺非結核性抗酸菌症とは

肺MAC症はMycobacterium avium complex(MAC:マック)という菌が肺に感染して起こる病気です。結核菌とらい菌以外の抗酸菌を非結核性抗酸菌 (NTM)といい、日本では約90%がMAC(マック)菌で、M. kansasii菌(カンサシ)、M. abscessus菌(アブセッサス)がそれに続きます。結核菌とは異なり人から人へ感染することはありません。肺結核が年々減少しているのに対して肺MAC症は明らかに増加しています。患者さんによって病状が異なることが特徴で、無治療でも長期間悪化しないケースもあれば、治療を行っても進行が早い難治性のケースがあります。

感染経路

MAC菌は土壌や水系などの自然環境および水道や浴室などの給水にかかわる生活環境に広く存在している菌です。シャワーヘッド、風呂の排水口、加湿器の水しぶき、園芸の際に発生する粉塵などからMAC菌を吸い込むことにより感染すると考えられています。ただしこれらの菌を吸いこんでも感染する人はごくわずかです。

肺MAC症になりやすいとされている患者さんの特徴

  1. 中高年で病気のないやせ形の女性(原因不明)
  2. 肺の病気にかかったことがある(陳旧性肺結核、肺切除後など)
  3. 現在肺の病気を持っている(気管支拡張症慢性閉塞性肺疾患 (COPD)・肺気腫、塵肺、間質性肺炎肺癌、胸郭異常など)
  4. 免疫を抑える薬を飲んでいる方(ステロイド、生物学的製剤など)
  5.  関節リウマチ
  6. 逆流性食道炎

症状

2~3割の方は症状がなく健康診断で偶然発見されます。病気が進むと症状が出てきます。呼吸器症状としては、咳、痰、血痰、喀血、息切れ、胸痛などがあります。全身症状としては微熱、体のだるさ、寝汗、体重減少などがあります。

診断のための検査

  1. 画像検査(胸部レントゲン・胸部CT)
  2. 喀痰培養検査
  3. 血液検査

画像検査、喀痰培養検査を行い、肺MAC症に合致する画像かつ他の肺疾患が除外され、喀痰培養検査で同じ菌が2回検出されれば確定診断となります。痰を出すことができない場合は、気管支鏡検査を行うことがあります。同じような画像となる他の病気がないか血液検査を行います。

肺MAC症の病型分類

肺MAC症は、①結節・気管支拡張型(NB型)、②線維空洞型(FC型)、③孤立結節型、④過敏性肺炎型、⑤全身性播種型の5つの臨床分類に分けられています。 ①結節・気管支拡張型と②繊維空洞型が大半を占めます。

結節・気管支拡張型(NB型)

最も頻度が高く近年増加傾向です。肺の病気がなく、中高年のやせ型の女性、非喫煙者に多いです。一般的には数年~10年程度で徐々に進行しますが、空洞を形成する場合は進行しやすいです。

線維空洞型(FC型)

画像所見が結核と類似しているため結核類似型ともよばれます。従来は主にCOPD・肺気腫などの肺疾患がある高齢男性に多くみられた病型です。最近は肺の病気がない患者さんの発症が増えてきています。治療反応性が悪く、進行しやすいです。

肺MAC症の治療の考え方

現在の薬物療法は一定の効果はありますが、完治は難しいと考えられており、自覚症状の改善と重症化を抑制して長期的に病状が安定することを大きな目標としています。無治療でも長期間安定しているケースや治療による副作用もあることから、肺MAC症と診断されたらすべての患者さんがすぐに治療を行うわけではありません。年齢、自覚症状、他の病気の状態、画像所見、喀痰検査などから患者さんと相談し総合的に判断します。早めの治療が勧められる方は、血痰・喀血がある場合、画像所見では空洞や病変が広範囲および悪化傾向、手術の可能性がある場合、喀痰塗抹検査で菌が多く出ている方です。一方で症状がほとんどなく、画像が比較的軽度、喀痰塗抹検査で菌が出ていない、75歳以上の高齢の方は、まずは経過観察でよいとされています。軽症の場合や積極的な治療を希望されない場合はエリスロマイシンを内服しながら経過を見る場合があります。ただし通常は徐々に進行する病気ですので、少なくとも3か月に1回程度は定期的に画像検査、喀痰検査を行い、進行が見られる場合は治療を検討します。

肺MAC症の治療

治療は3種類の飲み薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン、リファジン、エブトール)を服用することが一般的です。気管支拡張が強い方や空洞がある方には注射薬(アミノグリコシド系薬剤であるストレプトマイシンなどの筋肉注射を週2~3回、もしくはアミカシンの点滴注射)を追加します。最近の新しい治療として初期治療に反応が悪い場合に、吸入アミカシンが使用できるようになってきました。薬物治療であまりよくならない場合には、適応があれば手術も考慮されます。一般的な治療終了時期は、治療開始後の喀痰培養から菌が培養されなくなってから12~24か月とされています。ただしあくまでも目安であり、画像検査で悪化している場合や菌が消えない場合は治療を延長する場合があります。治療を終了したとしても再発が見られることが多いため、定期的な検査が必要となります。

肺MAC症の治療でみられることがある副作用

クラリスロマイシン

下痢、便秘、胃痛、吐き気などの胃腸障害、口内炎、味覚障害、舌炎、皮疹などがあります。薬の飲み合わせで問題が起こることがあるので、主治医の先生に今飲んでいる薬を忘れずに伝えてください。

エブトール

最も重大な副作用は視力障害です。治療をはじめて2か月程度経過すると出現する可能性があります。薬を中止すると大半の方は改善します。治療前と治療後から定期的に眼科を受診していただき副作用チェックをしていただきます。皮疹の頻度は3つの薬で一番高いです。他には足のしびれなどがあります。

リファジン

肝機能障害、白血球減少、血小板減少が見られます。自然によくなることも多くあまり問題となることはありません。薬の飲み合わせで問題が起こることがあるので、主治医に今飲んでいる薬を忘れずに伝えてください。汗、尿、便がオレンジ色になることがありますが、薬の色素ですので副作用ではありません。

副作用が疑われる場合は無理に内服せず、早めに受診をしてください。原因薬剤を特定すること、薬を少しずつ増量する減感作療法、代替薬を検討しできるだけ早めに患者さんに合う薬を探していきます。

日常生活で気を付けること

肺MAC症と診断されても基本的に活動制限はありません。免疫力が落ちないように規則的な生活を行い、定期的な運動、体重維持のために十分な栄養をとることが大切です。水しぶきや粉塵から感染すると考えられているため、そのような機会があるときは可能な限りマスクをして行ってください。ふろ場は清潔に乾燥させ、浴槽の水は早めに排水し、換気を行いましょう。呼吸器の病気がある方と同じようにインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンが勧められます。

肺MAC症の患者さんへ

現在使用可能な薬剤で完全な治癒に至ることは難しく、病勢をコントロールし、呼吸機能を維持するように努め、気長に付き合っていく必要があります。当院では豊富な症例経験をもとに診断、治療、定期経過観察が可能です。気管支鏡検査、長期点滴、手術が必要と判断される場合は専門病院と連携し治療を行っていきます。

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