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長引く咳(慢性咳嗽)

咳は気道内に貯留した痰などの分泌物や吸い込まれた異物を外に出すための防御反応です。咳は気管支、肺だけではなく鼻、喉、食道などのさまざまな臓器に分布するセンサーが刺激され、神経を伝わって脳に刺激が伝わることにより反射的に起こります。それゆえ咳の原因は様々です。

咳は持続期間により3週間未満の急性咳嗽、3~8週間の遷延性咳嗽、8週間以上の慢性咳嗽に分類されます。

3週間以内の急性咳嗽では呼吸器感染症のことが多く、ウイルス性のかぜ症候群が最も多いです。マイコプラズマ百日咳なども原因となることがあります。外来診察では3週間以上を慢性咳嗽として扱うことが多いです。

3週間以上の咳嗽では感染症の割合は大幅に減ってきます。また咳嗽は痰の有無によっても分類され、痰がないか少量の粘液性喀痰のみを伴う乾性咳嗽と、咳嗽のたびに痰を伴う湿性咳嗽とに分類されます。原因疾患としては、咳喘息アトピー咳嗽副鼻腔気管支症候群後鼻漏症候群感染後咳嗽逆流性食道炎、心不全、薬剤性など多岐にわたります。

最近の報告では慢性咳嗽患者さんの40%弱が2つ以上の原因疾患を持っているといわれており咳の診断と治療を難しくしています。その他肺癌間質性肺炎肺結核などの重大な病気も原因となります。長引く咳の診察では、問診、診察、検査結果をもとに診断を可能性が高い診断を考え、治療効果をみながら診断を確定させていきます。

かぜ症候群とは

鼻腔から喉までの急性感染症をかぜ症候群といいます。COVID-19もかぜ症候群の1つです。厳密にはかぜ症候群ではありませんが、急性副鼻腔炎、急性咽頭炎,急性気管支炎を含める場合もあります。健常な人の大半がかかりほとんどが自然に治る病気です。

感染が成立するまで

かぜ症候群は、くしゃみや咳などで飛散する飛沫を介してウイルスなどの病原体が、気道内に入って気道粘膜に付着し、侵入と増殖することから始まるとされています。発症するかどうかは、環境の要因や感染した人の要因によって決定されます。

症状

通常のかぜ症候群の経過は、1~3日間の潜伏期間を経て、微熱、喉の痛み、体のだるさからはじまり、1~2日程度遅れて鼻水・鼻づまりといった鼻症状が強くなり、その後咳や痰が出てくる経過が典型的です。3~4日目がピークで7~10日目でよくなることが多いです。

原因微生物

かぜ症候群の原因微生物は、全体の約90%がウイルスです。ライノウイルスが30~50%と最も多く、コロナウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスが続きます。急性咽頭炎ではA群β溶血性レンサ球菌、急性気管支炎ではマイコプラズマやクラミドフィラなどが原因となることもあります。

診断

典型的なかぜ症候群の症状であれば、問診や経過から検査を行わず診断が可能です。
A群β溶血性レンサ球菌、マイコプラズマ、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、COVID-19 (SARS-CoV-2)などは抗原検査を用いた迅速診断が行われます。

治療

かぜ症候群であれば、安静、水分・栄養補給により自然に治癒するために抗菌薬を使う必要はありません。必要に応じて薬物による対症療法を行います。高齢者や基礎疾患のある方は、かぜを契機に細菌性肺炎を併発することがあるので、注意が必要です。

マイコプラズマ

小児や若年者に起こる急性呼吸器感染症です。マイコプラズマに感染すると気道の神経が刺激され、強い咳が出ると考えられています。上気道炎や気管支炎を起こすことが多く長引く咳の原因となります。自然に良くなることがほとんどですが、まれに酸素吸入が必要となる重症肺炎を起こします。診断は抗原迅速診断キットや抗体検査で行います。主にマクロライド系薬の抗菌薬で治療を行います。

百日咳

百日咳菌による感染症です。比較的若い方に発症し、春~夏に多い傾向があります。1週間以上の咳があり、百日咳に特徴的な4つの症状、「①吸気時の笛声、②発作性の連続性の咳込み、③咳き込み後の嘔吐、④無呼吸発作」のうち1つ以上を伴う場合に臨床的に百日咳と診断します。ただし成人例ではこのような典型的な症状を示す症例は少ないです。抗体検査などで診断します。長引く咳が続いている(発症後1~2週間)状態ではすでに治療効果はないとされていますが、お子さんと接する機会がある方は除菌を行い。周囲の感染を防ぐために治療を行うことが推奨されています。主にマクロライド系薬の抗菌薬で治療を行います。

咳喘息

咳喘息とは

長引く咳の最も多い原因とされています。喘鳴や息切れがない気管支喘息の亜型です。気管支がれん縮し咳受容体を刺激して咳が出ると考えられています。かぜをひいたあと咳だけが治らないことで受診され、最終的に咳喘息と診断されるケースが多いです。成人女性に多く、悪化する要因として、天候の変化、運動、タバコの煙、花粉などがあります。咳は深夜~早朝に強く、季節性や日差で変動することが多く、喘息と共通点が多いです。

診断

①と②の両方を満たす必要があります。
① 喘鳴を伴わない咳が8週間以上持続(少なくとも3週間以上)
② 気管支拡張薬が有効
参考所見として血液・喀痰の好酸球増多、呼気一酸化窒素濃度高値が見られます。

治療

気管支喘息と同様吸入ステロイドを中心とした治療を行います。咳喘息では気管支喘息と異なり気道は狭くなっていませんが、アレルギーの炎症による気道の過敏性が高まっており、気管支喘息の前段階として考えられています。経過中30~40%の方に喘鳴が出現し気管支喘息に移行するといわれています。吸入ステロイドの使用により気管支喘息移行率が低下するため、症状がよくなってもすぐに治療をやめないことが重要です。

アトピー咳嗽

アトピー咳嗽とは

気管支の中枢にアレルギー性炎症が起こり、気管支の表面にある咳受容体が過敏になることにより咳が出る病気です。アレルギー体質の中年以降の女性に多く、かぜなどの呼吸器感染症、天候の変化、会話、ストレス、タバコの煙、運動などが誘因となり、のどのイガイガ感やかゆみを伴う咳が出ることが特徴とされています。咳の時間帯は就寝時、深夜から早朝、起床時に多いとされています。

アトピー咳嗽の診断基準

①~④のすべてを満たす必要があります。
①喘鳴や息切れがなく、痰のない咳が3週間以上続く
②気管支拡張薬が無効
③アレルギー素因がある(喘息以外のアレルギー疾患がある、血液検査・喀痰検査でアレルギー反応が見られる)
④治療により咳が消失する

治療

治療は抗ヒスタミン薬を使います。60%の人に有効ですが、改善しない場合は吸入ステロイドを併用します。治療は症状が治まれば中止可能です。

副鼻腔気管支症候群

痰を伴う長引く咳の原因の一つです。慢性副鼻腔炎のある方に肺の病気(慢性気管支炎、気管支拡張症、あるいはびまん性汎気管支炎)を合併した病態をいいます。診断には「①8週間以上続く息切れがない痰を伴う咳、②副鼻腔炎と考えられる症状・診察・画像所見、③マクロライド系抗菌薬や喀痰調整薬による治療が有効」の3つすべてを満たすことが必要です。耳鼻科と連携して治療を行います。

後鼻漏症候群

後鼻漏は鼻汁が鼻の奥に降りてくる感じや垂れてくる感じをいいますが、これが原因で起こる咳を後鼻漏症候群といいます。症状としては3週間以上続く痰を伴う咳で、夜間に多く、咳払いを繰り返すといった症状があります。咳が起こる機序として、鼻汁が喉の神経を刺激したり、気管へ入ることによる刺激で起こると考えられています。慢性副鼻腔炎によるもの、アレルギー性鼻炎によるもの、好酸球性副鼻腔炎などが原因となります。原因となる疾患に対する治療で症状が改善します。耳鼻科と連携して治療を行います。

感染後咳嗽

呼吸器感染症(特にかぜ症候群)の後で咳だけが残り、咳が長引く他の病態が除外でき、2~3週間で自然に良くなっていく場合に感染後咳嗽と診断します。咳が続く原因として、ウイルス感染により咳を発生させる神経が過敏となりますが、ウイルスがなくなってもしばらくは過敏な状態が続くことが原因として考えられています。中高年や女性に多く、咳嗽は就寝前から夜間、早朝に多いとされています。症状に応じて漢方薬や鎮咳薬を使います。咳の原因となる喫煙をしないこと、飲水やあめ玉で喉をうるおすことも有効とされています。

逆流性食道炎 (GERD)

逆流性食道炎 (GERD)は胃酸や胃内容物が胃から食道に逆流し何らかの症状が出現することをいいます。GERDは消化器内科の病気と思われるかもしれませんが、長引く咳の重要な原因の一つです。症状としては昼間の活動中の乾いた咳が特徴的で、胸やけ、口の中の苦み、咳払いなどがあります。咳が起こる機序としては、逆流によって咳を発生させる神経を刺激する機序と逆流内容が気道を直接刺激する機序が考えられています。胃酸分泌抑制薬、消化器運動機能改善薬、肥満・食生活の改善などを行い、咳が治まる場合にGERDによる咳の可能性が高いと診断します。咳喘息に合併することもあり両方の治療が必要なことがあります。必要に応じて上部消化器内視鏡を行います。

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